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 2009/11/01
異次元の世界の映像を『液体レンズ』で見せる
システム情報学専攻 奥 寛雅 助教

超高速の動きも瞬時に“オートフォーカス”
レンズの素材革命を推進、日本発の技術

 レンズの素材といえば、ガラスかプラスチックが相場だが、奥助教は、これらとはちがって液体レンズを目指している。その正体は水と油。両方の境界面に生じる界面張力を利用して瞬時にピント合わせをする。特徴は素材だけではない。焦点距離を毎秒2ミリという、いままでの1ケタ以上の超高速で切り替えることができ、超高速な対象でもピントずれがなく、超高速で切り替えても像が乱れない。このレンズを組み込んだカメラなら、ドライバーで打ったゴルフボールがどのような軌跡を描きながら飛んでいくかなど、まったく新しい映像を見せてくれるし、決定的なシャッターチャンスを逃がすことなく、素人でもプロの技をしのぐシーンを捉えられる可能性が出てくる。「完成度はかなり高いところまできています。近い将来、日本発の技術として世界に発信したい」。試作の液体レンズを見る産みの親の目は、自信とともに輝いている。

水と油の界面張力を焦点距離の切り替えに利用

 「ダイナモルフレンズ」(DML)と名づけられた、このレンズの中身から話を展開しよう。DMLは、下側に水、上側に油の2種類の液体を堅い容器の中に入れ、1ヵ所だけ接するところを設けたもの。水と油は互いに混ざらないので、接した場所に界面張力によって球面ができる。ここを光を通す窓として使うのだ。水と油は光の屈折率が違うので、光は窓を通るときに屈折する。まず、水を入れた容器の表面をピエゾアクチュエーター(PZT)で力を加えて両方の球面が光学的に平らな状態になるようにしておく。この状態では光は屈折せずにまっすぐに通るが、アクチュエーターで少し力を加えると内部の水が移動し、窓部分の水が膨らんで油を押し上げ、窓そのものがちょうど凹レンズの役割をする球面に変わる。一方、水の容器を押している力を緩めると、油のほうが水の面を押し下げ、窓の球面が凸レンズの働きに変わる。つまり、球面の形をダイナミックに変えて焦点を切り替える仕組みで、この切り替えるスピードがきわめて速いのだ。このことからダイナモルフレンズと名づけた。

DMLのメカニズム
DMLのメカニズム

 このレンズのポイントは2つある。「1つは球面の形状です。レンズとして機能するには、面が丸く“球”になることが不可欠なんです」。このために、油はある程度の粘り気(粘性)を持たせた。「たとえば、サラサラの油を使うと、池に小石を投げ込んだときのように表面が波立ってしまう。これでは丸い球ができないので、役に立たないのです」。粘性を自在に選べる透明な油を使うことによって、水滴のようにきれいな形の球にできたことが突破口を開いた。

 2つ目はピエゾアクチュエーターの活用だ。ナノメートルから数百ミクロンというきわめて微小な位置決めに使われるピエゾ圧電効果を応用したデバイスで、アクチュエーターの伸縮によって起きる容積の変化を積極的に利用したことが、液体レンズを機能させる際の大きなアドバンテージになった。しかし、応答性は速いものの、わずかしか変化しない(動かない)。この難点を解決しないと液体レンズはできない。解決へ導いたのが、中学のころに習う「パスカルの原理」だった。ふつうは“小さな力による大きな変形”を“大きな力による小さな変形”に変換して大きな力を得るために使われるが、これを逆に使って水を押す小さな動きを、窓のほうでは大きな動きになるような仕組みをつくればいいのではないか―。液体レンズは、すべて奥助教のアイデアから生まれたものではないが、海外の論文や研究も後押しをした。

DMLの全焦点合成
DMLの全焦点合成
※画面をクリックして拡大画像をご覧下さい

 レンズが登場して以来、固体レンズが主役を担っている。この素材に対する革新はまったくなかったが、ここへきてレンズ自体が形を変えるような能力を獲得し始めてきた。奥助教が見いだした液体レンズは、光学系の焦点距離を従来の10倍以上高速に制御できるため、被写体に向けたら瞬時にオートフォーカスが実現し、シャッターチャンスを逃がさずに撮影できる。いままでの光学系からレンズの移動機構を省けるので光学系の小型化が可能で、水と油の密度をほぼ等しくすると、液体レンズを重力に対して縦にしても使えるのも利点だ。

微生物の観察やリアルタイムの追跡も

 奥助教が液体レンズの研究に着手したのは2001年ごろ。所属する石川・小室研究室には1秒間に1000枚もの画像を処理する高速ビジョンがあったが、光学系の動作の遅さが高速ビジョンの利点を引き出せず、システム全体の性能を制約していた。また、顕微鏡で微生物など動くものを見たいと思っても、光学系は重いし、人を待たせるくらいの動きしかできない。しかも、微生物の動きは速いのでピントがずれたりする課題があった。そうした問題を解決する目的で液体レンズを取り上げたのである。

 光学系の歴史を変える可能性を秘めた液体レンズが登場すると、私たちは驚きの映像を目の当たりにすることになるかもしれない。たとえば、サッカーのスーパースター、あのロナウドが放った強烈なミドルシュート。そのボールがどのように回転してゴールキーパーの両手をくぐりぬけてゴールネットを揺らしたか、野球のホームランボールをその後ろから追いかけながらスタンドに飛び込んでいくダイナミックな軌跡を、VTRではなく、リアルタイムで見せてくれるだろう。3次元映像を眼鏡なしで見たいと誰しも待ち望んでいるが、焦点距離を高速に切り替える機能を持つ液体レンズをもってすれば、不可能ではない。

 異次元の世界の映像がいくつも見られる楽しみが膨らんでくるが、「そうなるには、まだ10年くらいの知の蓄積が必要でしょう」と言葉を選ぶ。技術の完成度が高くなっているのは事実だが、応答性能を2ミリ秒から1ミリ秒へ高速化すること、そして、もっときれいに撮れるようにシステム化することなどを柱に課題の詰めを急ぐ。そのために、奥助教ならではのビジョンと戦術が練られているのは確かで、専攻するシステム情報学の“知”を結集し、キラーアプリケーションを示して実用の扉を開く。

DMLの高速フォーカス切り替え
DMLの高速フォーカス切り替え
※画面をクリックして拡大画像をご覧下さい

奥助教
石川・小室研究室



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