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 2009/05/01
21世紀の主軸「量子情報科学の時代」を演出
コンピュータ科学専攻 今井 浩 教授

革新的な量子情報モデルの構築を急ぐ
“おとり”を使った量子暗号通信で端緒

 20世紀を拓いたデジタル情報科学技術に代わって、今世紀の中ごろは量子力学が支配する時代が始まる―。そうした視点から、今井教授は量子情報モデルの構築に挑んでいる。コンピュータも通信方式も、「0」、「1」の世界とは違った量子的な振る舞いを生かす時代になるが、今井教授は、その先駆けとして、研究者の知恵を融合して、世界で初めて安全性を保証する量子暗号通信実験に成功している。そこには、通信の途中で盗聴されることなく情報を送るために、“おとり”を使った教授独自のアルゴリズムが生きている。量子の時代を演出するための準備が徐々に整いつつある。

光の粒1個を操る究極の通信技術確立へ

 エレクトロニクス革命の主役を担った半導体も、量子の時代では新しい現象が現れる。重要な働きをしている薄い絶縁膜も、その厚さをナノオーダーと極薄にすると、絶縁膜の役目をしなくなる。量子トンネル効果で電気が通ってしまうのだ。量子効果を積極的に利用する量子コンピュータは、計算の速さの常識を変え、最速のスーパーコンピュータでさえも数千年もかかるといわれる超大規模な計算も、わずか数秒でこなす能力がある。コンピュータは量子状態で情報を表現する量子コンピュータへと移行し、光通信にしても、最終的には光の粒(光子)1個に情報を乗せて送るようになる。

 ニュートン力学によるこれまでの「0」、「1」の世界に限界が見えて、コンピュータサイエンスという学問の進歩が終焉を迎えるかもしれないとみられていたとき、「私たち情報理工の研究者に、従来とは違う力学、違う原理の研究分野が用意されていたのです」。量子情報科学という新しい科学を表舞台に登場させようと、世界の研究者がしのぎを削っているのだ。

 その中でも、今井教授が主体的に攻めているのは量子暗号通信である。量子力学には、量子状態を測定すると、その状態が変わってしまう『量子不確定性原理』がある。実は、この原理は量子暗号通信にはうってつけなのだ。量子暗号通信は、情報を送る側と受け取る側の双方だけが解読できる暗号カギを使って行うが、通信の途中で暗号カギを盗聴されると、量子状態で表現した情報の質が変化して相手に届くので、盗聴されたことがわかるからだ。今井教授らは、量子暗号通信が安全かつ確実に実行できるかどうかを探るために、“おとり”の情報を使って通常のオフィス環境を結んで実験した。その結果、理想的な条件が揃わなくても通信が可能なことを証明した。これは大きな進歩である。量子暗号通信が提案(1984年)されてから四半世紀後の2007年に、世界で初めて定量的に安全性を保証した実験に成功したもので、これにより、盗聴されない安全性を保証する暗号カギをつくる見通しをつけている。

1量子ビット通信路で4信号を用いて容量が達成されることを示した初めての例 デコイ量子暗号法で定量的に安全性を保証する方式のモデル
※画面をクリックして拡大画像をご覧下さい

 量子力学は、すでに部分的ながら情報科学を支えるテクノロジーとして使われている。それが21世紀半ばには基幹技術になり、量子コンピュータや量子暗号通信が活躍しているというだけでは、単に絵に描いた餅になりかねない。「実現の道筋を具体的につけることが私たちのミッション。量子暗号は、デジタル情報処理だけでは不可能な技術革新への第一歩となるものです」。その情報科学技術基盤づくりを目指して、今井教授は、JSTのERATO−SORST(2000年から5年2期の10年計画)で量子情報システムアーキテクチャ研究を推進している。中身は量子通信システム、量子計算機構、量子情報システムアーキテクチャなどだ。「量子通信の中核となる量子暗号がほんとうに安全でセキュリティを保証するものかどうかは、私たちが構築した通信システムの中に自ら入り込んで盗聴してはじめて確かめることができるんです」。おとりを使って実証したことから、参加メンバーの幅広い知恵を生かして仕上げに入ると骨太研究に自信を示す。

 光の粒1個を操るのが量子暗号通信の理想的な姿だが、光エネルギーとしてはきわめて弱い。この状態では、情報を光ファイバーで送れる距離は100qほどと短くなる。ここにたとえば、10個の光子を思うがままに扱える小規模の量子コンピュータを中継器として用意する。エネルギー的に弱まった光子を増幅し、そのうちの1個に安全性を保証した暗号カギをつけて送り出すシステムなら、長距離量子暗号通信が可能になる。こうした未来を拓くには、光子1個だけを出す光源(レーザー)や量子コンピュータとともに、量子情報処理の基本要素となっている『量子もつれ(相関)』を積極的に活用する技術が欠かせない。「量子もつれについては、アインシュタインとニールス・ボーアの有名な論争もあるくらい、量子力学の不可解さを示す例ですが、量子力学はとても魅力的な研究分野」と、今井教授は、未だ開かれていない扉をどのように開くかを楽しんでいる。

コンピュータも通信も「速いほうがいいでしょ」

 助教授時代の1994年、計算機科学者、ピーター・ショアが量子コンピュータなら素因数分解を効率よく解けると著したアルゴリズムの論文に偶然出合った。ほんとうにそうなのかと、計算量の理論研究という立場から追究を始めたのが量子力学研究に向かうきっかけだった。ただ『21世紀は量子の時代』という次代を見据えたものではなく、次の時代にインパクトのある理論研究を成し遂げたいと考えていた時期に、量子研究にブレークスルーをもたらしたショアの論文に注目した学生とともに量子アルゴリズム研究を展開したのだ。そして、量子計算ではじめて可能になるコンピュータ間のリーダー選挙方式を世界で初めて提案し、実証する成果も挙げた。

 アルゴリズム研究を推進する理由を聞くと「オリンピックですよ。やはり、速いほうがいいじゃないですか」。でも、モノが見えないと、その速さもよさも恩恵を受ける人にはなかなか伝わらない。「情報科学を研究していておもしろいのは、頭の中で考えていることが具体化して、それまでできなかったことができるようになることです。私たちには、頭の中にちゃんとそのモノが見えているんです」。情報科学者の頭脳の中にある、量子という優れものがシステムという形になって、社会を変え、生活を変える日が近づいている。

今井教授



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